過去の日記

2006-05-21 [長年日記]

可能無限 最後に [etc]

可能無限の世界がようやく分かった(と思えた)。
集合論的な考えから離れて、算数〜数学の授業で習ったことを順に考えてみよう。


まず整数。
次に分数。
負数。
それとは別に幾何学的な性質から円周率πを得る。
またピタゴラスの定理が幾何学的に証明される("ピタゴラスの定理を幾何学的に証明する"というのをアンチョコを見ずに、記憶を頼りにやってみよう。楽しいよ)。
短辺が1の直角三角形の長辺の長さは? \(x^2=2\) を満たす x だ。とりあえず分からないので √2 という記号で書いておく。
√2 が分数の形で書けないことが、背理法で証明される。
分数の形で書ける数に有理数、書けない数に無理数という名前を付けた。
有理数と無理数で構成される数のことを実数と……しない
そう、可能無限の立場では「実数」という概念が出てこない(それが可能無限の可能無限たる所以だから)。有理数と無理数。ただそれだけ。したがって見馴れている、数直線やx-y平面は出てこない。

p95
実数というのは、ですね、"real number"などと総称されてはいますが、全然リアルではなくって、(略)。それが、あたかも順序づけられるかのような解釈が可能なために、数直線という実体化された均質なイメージができあがってしまうのです。

ということで、ここで言う無理数は我々の知っている無理数ではない。無理数のうち、代数的数*1とπ*2だけしか扱わない。このことは念頭に置いておく。
とりあえず連立方程式は OK だ(追記:全然OKじゃなかった。後述する)。上にも書いた通り代数的に出てくる無理数は扱えるから。
次は関数。これはNGだ。というか、あまり扱う意味がない。連続関数という概念もなければ、x-y平面上にグラフを書くことも許されないのだし。
微分も出てこない。連続関数がでてこないから。多分積分も出てこないだろう。
対数が出てこない。指数関数\((f(x)~=~a^x)\) で、xの値域が実数まで拡張されてないから。ネイピア数eも出てこない。
三角関数も駄目。


順列、組み合わせ、確率なんかはまぁ、OK。
ベクトルや行列、虚数もOK。ただ、三角関数が扱えない世界では、行列や虚数はろくな道具になりはしないだろうけど……。


以上。
可能無限がたどり着ける世界はここまで。
これ以上に何か面白い地平が見えるのであれば、解説希望。


追記
πが無理数であることの証明は、可能無限の世界ではできないのではないかと思うが――微積分を使うから――いいのか?
さらに言うと、可能無限派のはずのタジマ先生がどうして「πといった個々の実数を作る規則はあります」(p97)と言えるのだろう?


2006-5-22 追記
>三角関数も駄目。
を説明。
[0, 2π) の連続する開区間と、[-1, 1] の連続する閉区間との間の対応づけをする関数だから。実数の連続性を否定した可能無限の世界ではこの対応付けはできない。
y = sinθ の関数で、θに有理数か代数的数をつっこんだとしてyの方からそうでない数が飛び出てくるかもしれない――出てくるはずだ。それは可能無限の世界では「数ではない」。


2006-11-14 追記
ちゃんと習ったのではなくて授業の合間の話として聞いたのだと思う。
「5次以上の方程式には解の公式は存在しない」(これについては、20070327.html#p01 のエントリの方が適切ですのでそちらをどうぞ)
その時は、ふーん、というぐらいにしか思っていなかったのだけど、最近それが何を意味しているか? に思い至った。
それはつまり、解の中に「四則演算とべき乗根を有限回用いて表せる数*3」ではないものが存在する、ということなのだ。

p97 より引用
平方根とかπといった個々の実数を作る規則はあります。ですから、個々の実数は認められます。しかし、実数の集合というのは、そうした種々雑多な規則の集合ということですから、そうした規則を作る規則を与えねばなりません。しかし、そんなものはありゃしないのです。自然数のときのような、すべての実数を体系的に作っていく規則などというのはないのです。

実にまさにその通りなのである。
5次以上の方程式の解の中には、「代数的に記述することができない数」があるのである。
「個々の実数を作る規則があるから、その(=個々の実数)存在は認められる」と可能無限派のタジマ先生は言う。ならばその規則が書けなければその数は無い、となるのか? タジマ先生に尋ねてみたいものだ。
しかしながら、5次以上の方程式であっても解は間違いなく存在する
可能無限の世界は、18世紀の数学にすらたどり着けない、ということなのだろう。きっと。


追記
どこからの引用なのか書いてなかった。

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の話題である。

*1 係数が整数であるn次の連立方程式の根になりうる数のこと。

*2 本文でも書いたが、πが無理数であるという証明は、可能無限の世界では難しいと思われるので削除。

*3 厳密には、有限回で終わることが保証された手順で、だろうか? ラグランジュによる証明を実際に読んで理解したわけではないので判らない。