過去の日記

2006-04-09 [長年日記]

オーバーロードされた数学上の記法 再び [etc]

無限大の極限 - Log of ROYGB

を読んで、\(2^{a}\) という数学上の記法が、3重4重にオーバーロードされているのが混乱を生んでいるのだろうか、とふと思ったので。


1.日常的文脈で。

\(2^{n}\) で、2をn個掛け合わせたもの。
つまり、
\(2^{n}~=~\underbrace{2~\times~2~\times~2~\times~...~\times~2}_{n}\)
ということ。


2.集合を扱っている時の普段の文脈で。

\(2^{A}\) でAのべき集合――部分集合の集合――のこと。
つまり、
\(A~=~\{1,~2,~3\}\) の時、
\(2^{A}~=~\{\phi,~\{1\},~\{2\},~\{3\},~\{1,~2\},~\{2,~3\},~\{1,~3\},~\{1,2,~3\}\}\)
ということ。


3.集合を扱っている時でかつ無限集合の濃度について語っている時で。

\(2^{A}\) でAの濃度を持つ集合のべき集合の濃度のこと。
例えば、
\(2^{\aleph_{0}}~=~\aleph\)
で、「可算無限集合のべき集合の濃度は連続無限集合の濃度に等しい」
ということ。


特に、2.と3.のオーバーロードがややこしい……のかなぁ? と思った次第。

無限大の過大評価 [etc]

まぁ、そうはいっても、という感じで、

無限大の極限 - Log of ROYGB

に対する直接のコメントをば。


そもそも無限級数を考えるのに、「可算無限集合のべき集合」とか「可算無限集合」とかを持ち出す余地は無い。
だって、級数で取り扱う式――数列の各項を加算した式――は有限の項しか持たないのだから。
そのことを4ページ目でわざわざ「僕」が説明してくれている。

\(\sum_{k=1}^{\infty}~\frac{1}{k}\) と書くと、kを1から∞とまで変化させて\(\frac{1}{k}\) を足し合わせるみたいに読める。まぁ、そう考えても悪い訳ではないけれど、∞という数がどこかにあって、そこまで*1kを変化されるというのは正確な表現じゃない。

\(\sum_{k=1}^{\infty}~\frac{1}{k}~=~\lim_{n~\to~\infty}~\sum_{k=1}^{n}~\frac{1}{k}\)

ここで右辺を見る。出てくる式は「n個の項を持つ可算の式」だ。「n個の項」っていうのは――すごく当たり前の事だけど――「有限の項」だ。
\(\lim_{n~\to~\infty}\) に惑わされてはいけない。nがどんなに大きくなっても「n個の項からなる可算の式」であることには変わりはない。いつか、どこかで、「無限の項からなる可算の式」になったりすることは、決してない
だから、そもそも「無限集合」なんて概念が出てくる余地は、ない。


もひとつ。
\(~S_{2^{m}}~\geq~1~+~\frac{m}{2}\)
は、
\(~S_{1}~\geq~1~+~\frac{0}{2}\)
\(~S_{2}~>~1~+~\frac{1}{2}\)
\(~S_{4}~>~1~+~\frac{2}{2}\)
\(~S_{8}~>~1~+~\frac{3}{2}\)
を「一般化*2」した表現。

数列\(S_{n}\) の\(2^{m}\) 番目の項は\(1~+~\frac{m}{2}\) に等しいか大きい

と読めばいいのであって、ここでも無限集合だとかべき集合がでてくる余地は、ない。

*1 引用元では傍点による強調。あぁ、傍点使いたい!

*2 ミルカさんとコンボリューション 4章。