2006-07-19 『1=0.9999…… ?』 秀逸なたとえ話 他 [長年日記]
■ここに書いておこう
『1=0.9999…… ?』シリーズ 『n + 1 を n で割ったら、答えは 1あまり1 になる』から転記するー。
「1/3 は 0.3333……っていう循環小数になるだろ?
これに 3 をかけると、0.9999…… ってなって 1にならないじゃん!?」
「ん? それがどうかした?」
「どうかした? って、だって、おかしくね?」
「ふーん……、1÷3×3=1だから、0.9999……は1以外の何者でもないはずなんだけど、なんか納得できない、と」
「そうそう」
──
じゃあさ3進数で考えてみよう。10進数でいう1÷3は、3進数では1÷10で、0.1だ。
3進数での3は10だから、0.1×10=1だ。どこにも不思議はない。
そんなのは当たり前だって?
じゃ次だ。
10進数の0.5×2=1。これをやろう。この式自体はokだよな?
0.5は1÷2のことだから、3進数で書くと……(筆算をしている)……となって、0.1111…… という循環小数になる。
2は3進数でも2だ。
つまり、0.1111…… ×2=0.2222…… となるんだ。
で、さっき0.5×2=1だってことはちゃんと確認したよな?
だったら、この式の右辺は「1以外の何か」だとは言わないよね。
……まだ納得してないかな。
そうだなぁ……。
(n + 1)進数で、1/n を小数点表示すると必ず、0.1111…… という循環小数になる。
これは宿命だ。
なぜかというと、「(n + 1) を n で割ったら、答えは 1あまり1 になる」からだ。
いいかい。
今、当たり前すぎることを言った。
当たり前のことを当たり前だと捉えただろうから、もう一度言うよ。
──
「n + 1 を n で割ったら、答えは 1あまり1 になる」
それがさも秘密の呪文/真理の扉を開けるキィワード/人を魅了する悪魔の声/世界に潜む深奥なる秘境であるかのように、静かに、ゆっくりと、けれど確実に発音した。
──
1÷n を筆算することを考えてみよう。
1の位に1がある。当然 n での商は立たない。この時にどうするかというと、「左に0があると見なす」わけだ。
そうすると"10"を "n" で割ることになる。
(n + 1)進数でいう"10"は n + 1 に他ならない。これを n でわると、小数点以下第1位に商として1が立って、そして 1 が余る。
この余った 1 を n で割ろうとすると?
そう、さっきの手順の繰り返しになる。
だから、
0.1111……
という「永遠に終わらない手順」の繰り返しになるんだ。
10進数での1/9
3進数での1/2
これらは0.111…… としか書き表せない。
でも (n + 1)進数を n進数に、基数を1つずらすことで全て 0.1 ということになる。
表記の基数を変えているだけの話だから、この2つの表記は「同じ数を指し示す」と考えるのが妥当だ。
1と0.9999……も同じように、表現が違うだけであって、同じ数とみなすのが妥当だろう。
それが嫌なら、「数を表現する方法」としての「循環小数」という道具を、一切否定し絶対に使わない、とすることだね。
でもそれは不合理だ。
だって『数』そのものに問題があるわけじゃなくて、『数の表現方法』についてまわる問題なんだから──。
■1=0.9999…… ? ε-δ論法への階梯
もうこいつもここに転記しちゃえ(ついでに加筆)。
0.9999…… と 1 との間に数があるかどうか? を考えよう。
もし、0.9999…… + p < 1
を満たすような正の実数 p があれば「0.9999…… と 1 との間」に数があることになり、0.9999....≠1 ということになると言っていいだろう。
10の-n乗*1を小数点表現する(nは正の整数)。
0.0……01 となる。(小数点と1の間に n-1個の0が続く)
(k は nの間違い。orz)
これを 0.9999……に足すと小数点以下n桁目で繰り上がりが起こる。
となり、1より大きくなる。
よって 0.9999…… + p を考えたとき、
正の実数 p がどれほど小さい値だとしても、 《\(p~>~10^{-n}\)
であり、かつ \(0.9999\cdots~+~10^{-n}~>~1\)
となるような \(n\)
》 が必ず存在する。
いきなり表現が難しくなった。
これはつまり、
- 0.9999…… + p < 1 を満たすような正の実数 p を探すために、p をものすごく小さくして考えてみましょう
- でもどんなに p を小さくしても、その p よりも小さい数を0.9999……に足すと1より大きくなっちゃう、そんな数を見つけることができます
- ということは、0.9999…… + p < 1 というような p は、探しても見つからない、というのと同じです
ということ。
したがって「0.9999…… と 1 との間」に数は存在しないということになる。
これを高校以前に考えておくと、ε-δ論法の考え方を教わる時に少し楽になるような気がするのだけど、どうだろう?
『1=0.9999…… ?』はシリーズです。
■1=0.9999…… ? 秀逸なたとえ話
1/3は0.333… 2/3は0.666… では3/3は0.999…でなくてなんで1になるんでしょうか。子供の頃からずっと疑問に思っていました。
http://q.hatena.ne.jp/1152759792
のコメント、
十進君と三進君もさることながら、十進ちゃんののたとえ話が秀逸。
1 から話を始めていること。10個に分けて9個を取る。残った1個を話に取り上げて、同じ手順をまた繰り返して適用できることを確認する。同じ手順を繰り返していくと終わりが無いこと――つまり同じ手順を無限に繰り返せるということを説明する。
0.から始めること。9 を書くこと。その右側にまた9を書くこと。それが右に無限に続いて果てがないこと。
全ての要素が対応している。
そしてその対応付けが奇麗だ。
このスレッドの元発言(=回答)が私だけど、
quintiaさんの解説を見て、本質的に分かった気がします。
のお言葉は本当に嬉しい。
私の回答を軽々と飛び越えて、十進君と十進ちゃんのお話がでてきたことは、本当にスゴイと思う。
十進君と十進ちゃんのお話を読んで、私自身も理解をさらに深めることができた、と思った。
続きます。
■1=0.9999…… ? 秀逸なたとえ話 続
なにが秀逸なんだろうかと考えると、これはつまり、このたとえ話が、1 = 0.9999…… であること――というのは 1 という数と、0.9999…… という数があってそれらが等しいということを証明しているわけではないという点だと思った。
1 = 0.9999…… と記述した時点で、すでに 1 という数があることと0.9999…… という数があることを自明なものとして受け入れてしまっているのではないか?
このたとえ話はその辺に疑問を生じさせてくれる。
で、だ。
0.9999…… というのは「数を表記したもの」ではなくて、1 という「数の性質を表記したもの」だ、と思うと、このたとえ話をうまく理解できるような気がする。
1という数を10分割して9取る。その残りをまた10分割して9取る。その残りをまた10分割して9取る。そして"その残りをまた〜"という手順,手続き,操作――なんと呼んでも構わないがとにかくその様な概念――を無限に繰り返すことができますよ、という性質の表記法なのだ、と捉えるのである。
循環小数を「ある有理数が持つ性質」を表記したものだと捉える。
ある数を、ある数で分割してある数だけ取り除く。またある数で分割してある数だけ取り除く。この手順は有限回で終了することはなく、無限に続けることができる。
循環小数の概念は、ある有理数がそんな性質を持っているのだという表記法なのだと、そう捉えられるのではないか? ということ。
もっとも、これは予感であって、本当に一般化する(あるいはできるのかどうか?)にはもっと長い時間をかけて考えなければいけないのだけど。
*1 という意味が分からない人は、0.000……0001 というように0がいっぱい続く数だ、とだけ思っておけばいいよ。