2007-03-19 [長年日記]
■科学とソフトウェア 永遠のβ版とリリース版
ちょっと引用が続くがご容赦を。
タイトルどおり、科学を永遠のβ版とみなすのだ。
404 Blog Not Found:科学=永遠のβ版
(略)
もっとも、実は科学の世界もソフトウェアの世界も、一つ小さからぬ共通の課題を抱えている。コーダーたちが「リリースエンジニアリング」と読んでいる問題である。
ソフトウェアとハックの喩えはなかなか良いものだと思いますが、非常に重要な違いがあることを忘れてはいけません。科学がソフトウェアと違うのは、「これがリリース版である」といった一方的な宣言が不可能である事です。
Skepticism is beautiful - 『404 Blog Not Found:科学=永遠のβ版』
「リリース版」宣言をした瞬間にそれは「ニセ科学」になってしまうのです。
「永遠のβ」であってもリリースエンジニアリングは必要だし、βX版(Xは数字、β1とかβ2とか)のことをリリース版と呼んでも差し支えないだろう。
nightly build と一線を画する意味での「リリース版」に違いはない。
後続のバージョンによって常に上書きされる可能性のあるリリース版、ってのはソフトウェアにもある。
厳密にはソフトウェアとは違うが、HTML3.0 なんてそうだ。
HTML4がでているけど、HTML2.0 や HTML3.2 は現在でも通用する(実際に使われるかは別の話だけど)バージョンだ。
HTML2.0 は後続のバージョンが出ても抹消されていないが、HTML3.0 は違う。
This document has been superceded.
HyperText Markup Language Specification Version 3.0
なのだ。HTML3.2 によって上書きされた、今はないことになっているバージョンだ。
例えばニュートン力学の「万有引力は質量に比例して距離の2乗に反比例する」ってのは、ソフトウェアの比喩で言うなら、
「すごく古いバージョンで限定された場面でしか使えないけど、使い所さえ間違わなければ充分役に立つし何より動作が軽い」
ってなところか。
いずれ上書きされてしまうバージョンかも知れないけど、まだ使える。
どっちみち比喩なんだし、「β版」と「リリース版」に区別を設けるとか、「リリース版」っていったらそれはもう変えられない/取り消せないバージョンのことじゃないか、とか言うことにあまり意味は無いだろう。
で、弾さんの「科学をハックする」という比喩だけど、これで頭に浮かんだのは、去年の「惑星の定義と冥王星」の話だった。
10年以上は前に知られていた(そういう意見が存在した)ことが、衆目に対して「リリース」されるまであんなにもごたごたしたわけだ。
それでいて面白いことに、「なんかよく分かんないけど科学者たちが会議を開いて突然そんなことを決めるのか!」というような反応を示した人が少なくなかったように思う。
やっぱり、ハックというのはそういうものをこよなく愛する一部の者の間でしか広まらなくて、結局「リリース」というフェーズが不可欠なんだろうな。
ハックとか、私家版パッチとか、そういうものがあったことを知らない人――知ろうとしない人にとっては「リリース」がイコール「真実になる瞬間」なのか。
だとしたら、まぁ、あんまり関わり合いたくはないわな。
■その"水"は重い?
ナノクラスターってなによ? -- 下の説明図が実にわかりやすいです。
檜山正幸のキマイラ飼育記 - 松岡農水相もなんだが、その“水”はなによ?!
この説明図を素直に見ると、「ナノの水」は「普通の水」よりも100倍比重が高いわけですな(この図が"断面"だと仮定すると1000倍)。
コップ一杯が10kgより重い!
そんなことしても何も変わらんって、基本的に水道水と同じだもん。
檜山正幸のキマイラ飼育記 - 松岡農水相もなんだが、その“水”はなによ?!
「水道水をそういう風にして飲む人はいない」ことがこの説明のトリックなのでは?
ならば、ここはやはり「水道水やミネラルウォーターを同じようにして飲むのと変わらん」かと。
■祝・数学ガール発刊披露!
結城浩の最新刊『数学ガール・ミルカさんとテトラちゃん』の紹介ビデオです。
結城浩のはてな日記
いきなり主題歌とか流れたり、ミルカさんやテトラちゃんがくるくる回りながら登場したらどうしよう、とか思った(嘘)。
いやめでたいめでたい。
これはかなり「画期的」な本になると思うので、すごく嬉しい。