2007-03-03 [長年日記]
■沈黙のフライバイ
読了。
「SF……だよなぁ」
読み終わって、地下鉄から降りて、まず心に浮かんだのが上の言葉。
SF……、そう、間違いなく、SFだよな。
でも何かが、引っかかる。
Sense of wonder.
もう、SFにwonderはない、と最近どこかで読んだ。うん。確かに、これを読んでいてwonderを感じたりはしなかった。
でも、ワクワクするような高揚感はある。
うん。高揚感。それだ。
何かを作る。作りたいと思う。設計する。そこにある高揚感。
作り始める。苦労する。でも形ができあがり、もうすぐ完成する。そこにある高揚感。
《ここ》にあるのは、そんな気持ちだ。
登場人物は皆ワクワクしている。何かに高揚感を感じている。
そんな様子を読む。だから、こっちもワクワクする。……「だから」は間違いか。
読む側に、それにシンパシィを感じるものがある。だから、一緒にワクワクする。
p215
「できっこないですか?」
これが爆弾になった。
審査員たちは急に真顔になった。アイデアを評価するとき「できっこない」は禁句だった。
これも気持ちよい。アイデアを生み出すのは難しい。あるいは定式化した手順を作れない、と言い換えてもいい。
でもアイデアを殺すのは簡単だ。文字通りの殺し文句(アイデアキラー)がある。
「そんなのできっこない」
ただそう言えばいい。
でもこの本に出てくる人はみな、それを言わない。それを言わないことが先に進める道だと知っている。
これもまた心地よい。
ワクワクできる何かが提示される。それに対して「できっこない」と口にせずに真剣に検討をする登場人物たち。
その姿にも、「こうありたい」と願う気持ちとともにシンパシィを感じる――否、感じたいと思う心の動きが生まれるのだろう。
この本は、間違いなくSFだ。
Sense of wonder.ではない。でもそれでもなお「ワクワクできるものがまだ残っている」。それを夢見させてくれる。
それが、これからのSFが担う位置なのかも、しれない。
蛇足
そして、読み終わった時に感じるのは軽い喪失感。
何かができあがったとき――2000ピースのジグソウパズル? 精緻な模型? プログラミングをしていて「これで自分にとって必要な機能は完全に揃った」と感じた瞬間?――に感じるのにも似た軽い喪失感。
だから、読み終わった時に、何かぼうっとした、そんな感じを持った。
■ヤチマ
少々古い話題ですが。
話の流れと訳者後書きを読む限り、ヤチマのジェンダーは間違いなく女性です。女性ったら女性です。
Note - 雨のち晴
ということなら納得できます。
私も最後のシーンの手前で同じことを思ったからです。
が。
その次の瞬間、つまり最後のシーンで、あぁそういうことじゃないんだとも思ったのです。
「種の次の世代を残す」という事象に(聖母信仰に見られるような)女性原理を見てしまうのは、読んでいるこちら側がそうだからという理由からであって、ヤチマたち――ヤチマが筆頭に出てくるのは"孤児"だから――のメンタリティにはそういう原理はないんだろうな、と。
そこまで書くのが面倒だったわけですけどね。
■世界樹の迷宮 ゲームを探索する面白さ
今までちっとも書いてなかったけど、この1週間ちょっと、
で遊んでいる。
これはなんだろう? というのを「発見」する楽しさがあったり。
「CUSTOM」で未修得のスキルを選択すると、取得に必要な条件が表示される
まんぷく::日記 - 世界樹の迷宮・知ると得するこんなこと
とか、
一方、FOE接近メーターは自分の場合、なぜか説明なしでそういうものだと理解していた。
まんぷく::日記 - 世界樹の迷宮・知ると得するこんなこと
とか、
なお、コマンド選択時のAボタン押しっぱなしでは、直前のコマンドが再度入力されるようだ。
まんぷく::日記 - 晴れ
ですよ。
私はFOE接近メーターは、「あれ? これなんだろう?」と思って、もしかして場所に反応するレーダーだろうか? と思ってわざわざ戻ってみても再現しない。
説明書に……書いてない。
じゃあ、そのうち判るだろ、と思ってとりあえず放っておいて、果たしてそのちょっと後に気がついた。
そういう面白さがあるのですよ。
というか、いずれどのようなものであれゲームはそういう要素を持っているのだけど、そういう"気づき"がゲームを長く遊ばせる要素でもあるのではないか、と。
グランディアの攻撃方法が2種類あるとか、そういうことを理解してないと相手に攻撃されるばかりで自分の番が回ってこない/飛ばされるというイライラを味わう羽目になる。
でも、ある時点で、そうか! これはそういうシステムなのか! と気がつくと戦闘に対する認識ががらっと変わる。その変化は瞬間的で、かつ大きい。
そこから後のプレイ感覚を180°回転させるような、そんな体験をするとそのゲームに対する愛着とか評価とかが格段に上がる(あまりにショックが大きいと下がるけど)。
「世界樹の迷宮」は、「とにかくチュートリアルが豊富な最近のゲーム」らしくなくて、そういう楽しみを持っていると思う。
これから先にどんなことが待っているか、楽しみなのだ。