過去の日記

2005-10-30 ダイオキシンの急性中毒で死んだ人は何人ぐらい? [長年日記]

ダイオキシンの急性中毒で死んだ人は? [etc]

Q.人類史上、ダイオキシン類化合物による急性中毒で死んだ人数はどのぐらい?




















A.4人。あるいは0人。


A君:ダイオキシンの急性毒性など、全く問題ではない。普通の食事であれば、100万日分の食料を1日で食べないと死ねない。しかも、ダイオキシンの場合には、例えそれだけのダイオキシンを摂取しても死ぬには1週間は掛かる。ダイオキシンの急性毒性で死んだ人は、4名とされているが、あるいは、0名かも。

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C先生:「カネミ油症事件(68年)では、急性中毒による死者はでなかったが、PCDFとPCBの慢性毒性によって様々な症状が出た。この事件を契機として」、が正しい表現。

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過去の事故等において、高濃度のダイオキシンを吸入したことによりヒトが死亡した報告例はありませんが、ダイオキシン被爆の有名な事件として、1976年にイタリアのセベソで起こった、農薬工場の爆発事故があります。
この事故は、農薬製造工程で異常反応が起こり反応温度が上がりすぎてダイオキシンが合成されそれが爆発によって飛散し、多くのヒトが被爆したという事故です。
この事故では多くの家畜が死亡したようですが、ヒトの死者はなく、被爆者3万人のうちクロルアクネ(ニキビ状のもの)の発症が152人にみられました。

「再生原料を使用した建築用製品」に関する意見書

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追加:

さてこれだけ騒がれてきたダイオキシンに、なぜ今になって「大した毒性ではない」という話が出てきたのか?一言で言えば、「動物実験では確かに強い毒性があった。だがダイオキシンで倒れた人間はほとんどいないではないか」ということです。

(略)

 ダイオキシンのモルモットでのLD50は0.6μg/kgとされます(μgは100万分の1グラム)。この数値を体重60kgの人間に当てはめれば致死量は36μg、つまり1gのダイオキシンは17000人分の致死量に相当することになります。多くの本に登場する「青酸カリの1万倍、サリンの17倍」という数値はこれが根拠と思われます。ただし、モルモットは化学物質に対し非常に敏感な動物であることが知られています。

(略)

最も顕著なケースは、北イタリアのセベソで起こった事故です。1976年7月、この町にある農薬工場で化学反応の暴走が起こり、推定130kgものダイオキシンが噴出しました。これは周辺数キロの範囲に飛び散って17000人がこれを浴び、しかもまずい対応のために避難が始まったのは事故から1週間が経過して、住民がたっぷりとダイオキシンを吸い込んでからになってしまいました。住民の血中ダイオキシン濃度は通常の2000〜5000倍にもはね上がり、悲惨な事態を予見してイタリアのみならずヨーロッパ一円がパニックに陥りました。

ところが驚くべきことに、22億人分の致死量(モルモットでの数値)のダイオキシンが狭い範囲に降り注いだこの事故で、死者は一人も出ていません。奇形児の出産を恐れて中絶した妊婦もたくさん出ましたが、胎児にも特別な異常は見られなかったということです。出産に踏み切った女性たちの子供や直接ダイオキシンを浴びた住民たちはその後長い間追跡調査を受けていますが、体質によりクロロアクネ(吹き出物に似た数ヶ月で治る皮膚病)が出た人を除けば、病気の発生率・死亡率など特に異常は見られていません。

ダイオキシンは猛毒なのか

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日本人に、強い印象として残っているのは、ヴェトナム戦争時に米軍が散布した枯葉剤の事でしょう。枯葉剤そのものがダイオキシンだったと誤解されているケースが殆どのようで、この誤解がダイオキシンの恐ろしさに短絡的に繋がっているようですが、実はこれは誤解なのです。米軍は、1962-1970年までの間に約50,000トンの枯葉剤を散布しました。品種は幾つか有り、2,4-Dと2,4,5-Tの除草剤を50/50で配合したものが、「オレンジ剤」と略称され、一番大量に使用されたのです。この「オレンジ剤」には不純物として、数ppmのダイオキシンが含まれていたことから、150-200Kgがヴェトナムに散布されたと推定されました。

1993年に米国の医学研究所(IMO)が「オレンジ剤」に関する報告書を出し、「オレンジ剤」が原因として考えられる症状として、クロルアクネ、軟組織肉腫等5つの症状を特定しましたが、それが、2,3,7,8-TCDDによるものか、除草剤の2,4-D又は2,4,5-Tによるものか断定していません。この他、多くの報告書が出されていますが、未だ結論は得られていないようです。
(略)
ヨーロッパ人にとってのダイオキシン問題は、1976年、イタリアのセベソで起きた化学工場の爆発事故によって、広く知られるようになりました。これは、合成反応の制御が出来ずに工場が爆発し2-3kgのTCDDがセベソの町に降り注いだ事故です。子供達は面白がって白粉の霧の中で遊び2日後クロルアクネの症状が子供達を中心に多数出ました。しかっし、急性中毒による死亡者は出ませんでした。唯、兎・山羊・馬・牛豚等の青草を食べる動物たちは、多数死にました。この地域の妊婦の内約20%異常出産を懸念して中絶しましたが、皆正常でした。出産にふみきった残りの妊婦から、幾分障害のある子供が二人生れましたが、率としては異常とは言えません。1993年、ミラノ大学労働衛生研究所(IHO)は、ダイオキシンに触れた可能性のある住民37,000人と、事故に無関係な国民182,000人との間の発ガン率を比べた結果を発表しました。これによると、セベソ近郊の住民の方が僅かに多かったが、はっきり多いと言えるレベルではありませんでした。

dioxin_6

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これで最後。

ダイオキシンは「史上最悪の毒物」といわれるが、不思議にダイオキシンで自殺した人はいない。この謎について少し考えてみたい。

青酸カリなら耳かき一杯で自殺することができるから、仮にダイオキシンの宣伝に使用された毒性、「ダイオキシンは青酸カリの六万倍の毒性」、「史上最強の毒物」が真実なら、自殺に使えるはずである。そしてもし、それほど危険なものなら、ダイオキシンが発生している場所や、作る方法を一般に販売する本や新聞に書くのもはばかられる。

食の安全ー10 ダイオキシンで死ぬことはできるか?

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本当に、不思議だと、思いませんか?


追記
リンク切れのものについて、Internet Archiveへのリンクを併記。


追記 (2011/01/27)
人間に対してのダイオキシン(類化合物)の毒性はすごく低い、ということがだんだん分かってきた、という理解であっているようだ。
なんでそんなことが分かるまで時間がかかったかというと……、ダイオキシンによって健康を害する人が見つからなかったから、らしい。
毒性を調べようにも、患者が全く出てこない、したがって調べようがない*1、という状況だった。とそういうことみたい。

*1 書くまでもないかもしれないが、人体実験はできないから。