過去の日記

2005-10-08 六の宮の姫君 北村薫 を読んだ [長年日記]

六の宮の姫君 を読んだ [novel]

さて、芥川賞・直木賞ときて芥川賞は芥川龍之介なのはいいとして、直木賞は誰か? と尋ねればなんといらえるか?

直木を記念するために、社で直木賞金というようなものを制定し、大衆文芸の新進作家に贈ろうかと思っている。それと同時に芥川賞というものを制定し、純文芸の新進作家に贈ろうかと思っている。これは、その賞金に依って、亡友を記念するという意味よりも、芥川直木を失った本誌の賑やかしに、亡友の名前を使おうというのである

とは文藝春秋に載った菊池寛の言葉。(六の宮の姫君 p248)


今回探偵の役を演じるのは、円紫さんではなく、《私》である。
とはいっても事件が起きたりするわけではない。

書物探索の旅路の話。
御題は芥川の「六の宮の姫君」。

あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ

一体誰を相手にした「キャッチボール」だったのか?
投げられていた「玉」はいったいなんだったのか?
《私》は、本を読み、想像し、目録を捲り、年号を調べ、父の本棚を引っ繰り返し、その答えに迫る。


「書誌学」とはこういうことか、と膝を打った。最近せどりグループで書誌学ってどういうもの? という話題を俎上に載せたばかりである。その直後に読んだのがこの本なのだから、

後から来た誰かが、つれづれに手を取ることもあるだろう。縁のあるものなら、私もまた古本屋さんで会えるだろう。

と思う《私》の心地に、私も同感するのである。


工学部出の私が「文学」というものを肌で実感した初めての体験。いや、もちろん所詮は疑似体験でしかないのだけど、でもこの感覚は判る。
そんな貴重な体験をさせてもらった。

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売: 1999-06-20
  • ASIN: 4488413048
  • メディア: 文庫
  • amazon.co.jp詳細へ


こうして思うのは、「空飛ぶ馬」を買ってから読了までに4年かかったことが、まるで何かの意味があったかの様だということ。
「六の宮の姫君」は、自分にとって、まさに今、読まれるべき作品の様に思えて、仕方がないということ。
不思議なるは縁なり――。