2005-08-18 [長年日記]
■Wikka
インラインで画像、Flash、そしてFreeMindの表示が出来る。これは便利だと思う。
Open Alexandria-Wikka-オープンソース・ソフトウェアを紹介
FreeMindがインラインで表示できるというのは、一部の人に需要がありそう。
……ウィッカといえば、TRPGの「ブレード アンド ワード」を思い出してしまう。
■ギリギリで締め切られてしまった。
10人の旅行者がホテルに泊まろうとしていた。
ところが、ホテルにはあいにく9部屋しか空いていなかった。
http://www.hatena.ne.jp/1124291242
カントールの話によく出てくる「無限ホテル」を知っている人にミスリーディングさせるという、微妙に高度な問題か? と一瞬思ってしまった。
無限ホテルの話
無限−G.カントール
基本は文庫版パタリロ(13)に出てくる詐欺と同じ。
大きいパンと小さいパンがある。
小さいパンを1ドルで買う。
しばらく歩いてから戻ってきて、やっぱり大きいパンを買うという。小さいパンを差し出して「1ドルで引き取ってくれるな?」と聞く。
さっき渡した1ドルと合わせて2ドルだから、といって大きいパンを持っていく。
というもの。
同じ1ドル札を2回カウントして2ドル出したかの様に思わせている。
(本当は3ドルのパンと1ドル50セントのパンで値切り交渉も一緒にやっているので話はもっと紛らわしくわかりづらい)
Web上で検索すると↓のページで詳説されている。
同じ実体(質問ではAさんのこと)を2回数えさせて、9人しか数えていないのに、10までカウントしたように思わせるトリック、というのが回答解答だろう。
■万物理論
SF的ガジェットは無数。万物理論(TOE)は(中心に位置しているのは間違いないが)それらの1つである。「"万物理論"は全ての自然法則を包み込む単一の理論である。2055年,この夢の理論が完成されようとしていた。」
主人公は科学ジャーナリスト。クライアントのコネを使って万物理論の提唱者の1人との取材番組の撮影,編集権を他のジャーナリストからもぎ取った。
舞台はステートレス。世界から見放された、人工の大地(島)。企業が持つバイオテクの特許権を全て無視して、バイオテクを使用する。その代償として他の国との(ほとんど)全ての接触,援助が無い。ステートレス。「国が無い」という意味でもあり、情報処理用語としては「処理の状態を保持,管理しない」という意味でもある。ダブルミーニングが仕掛けられていると思っていいだろう。
序盤は2055年の科学の賜物である魅力あふれるガジェットが次々に惜しげもなく投入される。ジャーナリストは自分の眼をカメラにする。サイバネティクスで体内に埋め込まれた保存,通信モジュール。世界に蔓延しつつある謎の疫病。バイオテクが企業の特許によって保護され、飢餓や干魃などといったその技術が本当に必要になる人びとには、決して手が届かない(特許使用料が課せられている)矛盾を抱えた社会。がそれは枝葉末節。とりあえず読者を引き込む道具、と同時に多くは伏線でもある。
舞台はステートレスに移る。ステートレスという「どこの国でもない」「今まで暮らしてきた世界の一部ではない」土地に足を踏み入れ右往左往する主人公。
ステートレスで開かれる国際理論物理学会をきっかけに様々な人間が主演しては退場する。
≪わきまえろ科学!≫≪神秘主義復興運動≫といったカルト集団。(万物理論が完成してしまえば、この宇宙に"科学では説明できないこと"などなくなってしまう。神秘主義の終焉でもある。)彼らを研究対象とする社会学者。ステートレスの住人達。徐々に姿を見せ始める≪人間宇宙論者≫達。
主人公を取り巻く情報は入り乱れ、憶測が憶測を呼び、何が真実か──誰が本当の事を語っているのか、「ステートレス」とは何なのか、誰が何をしようとしているのか。自分が立脚する世界を失っていくかのように主人公は事態に振り回される。
≪人間宇宙論≫とは万物理論を完成させた人間、その存在が基石(キイストーン)となる。「わたしたちが期待できるのは、いずれひとりの人間がTOEを心に思い浮かべる最初の人物となり、その帰結を理解し、そして──目にも見えず、感知もできないかたちで──わたしたちすべても意味づけすることで存在させる*1のを、目撃することだけね」
最後の最後までめまぐるしく事態は進む。主人公や万物理論の提唱者は生命の危機に会い、ステートレスは侵略を受け、住人達はある決断をする。
万物理論が完成した時、本当に誰かが≪基石≫となるのか? それは誰なのか? 万物理論が"完成する"瞬間はどう定義されるのか? ≪人間宇宙論≫が示す未来(と過去)は、果たしてその通りになるのか?
とまぁ、ざっとあらすじを書くとこんな風になるのだけど、グレック・イーガンの長編の中では一番面白かった。SF的なガジェットがストーリーにがっちりと食い込んできて離れることはないし、グレック・イーガンが常に扱っている人間のアイデンティティに関する展開も見事。
今回は一続きの物語として非常に完成度が高く、今までの長編で見られた「あれ、この設定はこんな風に整理されちゃうの?」といったがっかり感も無かった。
もう一度。グレッグ・イーガンの長編ではトップの座に付く一作であった。
*1 註:本文では傍点による強調