2008-03-26 [長年日記]
■文書表現技術ガイドブック ほぼ読了
表紙を見るとなかなか堅そうな本に見えるが、その通り。
実にアカデミックな内容だった。
といっても、空論で、実際には使えないといったような負の評価ではない。
構成、文体などが大学で使う様な教科書然としてはいる。
中身も、認知心理学分野から多くの論文を引用しており、やっぱりアカデミックである。その辺りにとっつきにくさを感じる人は多いだろう。
でも特別難しいことが書いてあるわけではない。臆せず読み進めてOK。
目次を引用する。
第1章 文書とは何か?
第2章 読み手は文書をどの様に理解するのか?
第3章 読み手に合わせた表現とは?
第4章 文章表現や文章構造の工夫とは?
第5章 図表を使った表現はなぜわかりやすいか?
第6章 わかりやすいプレゼンテーションとは何か?
第7章 Web による表現をどのように工夫するか?
私は第7章を読み飛ばしたことを記しておく。
p11
学校の先生は説明のプロです.(略)
上手に説明できるかどうかは,先生の「授業スキル」の基本です.(略)そして,あるベテランの先生に伺うと,(略)
基本は、「何を説明するか」ではなく、「何を説明しないか」を考えるそうです。
これに限る。
とにかく、意識せず、自然に書いていると長くなる。だから、いかに書くかなんて考えたことはなくて、いかに書かないかばかりを考えている。小説を書き始めた頃に、これに気づき、以来ずっと、どこまで削れるか、というチャレンジを続けている。
MORI LOG ACADEMY: いかに書かないか
それで、新聞のコラムで読んだと前置きした上で覚えている限りの文章を打ち込み、《時間がなかったので長文になりました》と結んだ。
(略)
――《パスカルだね》
(略)
きっと書き込みミスだと判断して、それを報せるメールを発信したのだ。まもなくそれに対する返信が届いた。
――パスカルはフランスの哲学・物理学者。彼が誰かへ宛てた手紙にそう記していると何かで読んだ覚えがある。「時間がなかったので長文になりました」とね。短い言葉で用件を伝えるには、それなりに時間が必要だからね。
「白い花の舞い散る時間」はこれで何度目の引用だろう。
なぜ「説明しない」「書かない」ことが重要なのか。
p11
余計なことを言うと大混乱し,知らない用語を使うと授業がストップするからです.
「未だ知らないこと」について説明しようとしているのだから、なんだか変な感じもするだろうが「理解するのに邪魔なもの」を知ること。考えること、重要。
結局、そのためには情報の「受け手」について意識しなければならない。
このテーゼは、この本の中で幾度もでてくる。第3章がまるまるその内容だし。
様々な論文を引用し*1実験と結果を書き連ねている。
その中から「なぜ受け手を意識しなければならないのか?」を説明しようとしている本だ。と私は感じた。
以下、気になった部分を列挙して終わりにしよう。
p26
ウォルフェ(Qolfe et al., 1998)は,先行知識の量が中くらいの文章で最も知識の獲得がなされることを明らかにしています.
読もうとしている本の半分ぐらいは知っている内容、がちょうどいいらしい。
p48に出てくる実験。学習者と説明者の群にわけ、コンピュータ操作の説明をさせる実験。
辻(2006)は,コンピュータ操作を説明する場面で、学習者の知識・目的・溜まっている問題を,説明者がどのくらい正しく推定できるかを調査しました.その結果,学習者の目的を正しく推定した割合は 85.0% であり,困っている問題を正しく推定した割合は 58.3% である一方,学習者の知識を正しく推定できた割合は 41.7 % にとどまりました.
何をしようとしているか、何に困っているかを推定するよりも、相手がどの程度知っているかを推定する方が難しいというのである。
これは「読み手を意識すること重要」というこの本の主題を考えると致命的に不利な結果である。
結局「読み手を意識する」というのは「読み手を想定する」ことにつながり、ペルソナ手法などの出番となる、という風に進む。
p111 プレゼンの話
この研究では聞き手がスライドから感じ取った興味,わかりやすさ,おもしろさの高さと,正誤形式の質問項目の正答率が重なっていることも確認されました.つまり,聞き手が興味をもち,「わかりやすい」「おもしろい」と感じるスライドほど正しく理解されるということになります.
場面によっては「正しくもれなく説明する」ことよりも、「おもしろい」ことを優先させた方が、相手が正しく理解してくれる、ということか。
それもまた結局、「何を説明しないか」に繋がるのではないだろうか。
「正しくもれなく」って、想像を働かせる余地ももなくて、つまらないじゃないか。
■図書館カビのために休館
カビの胞子が貴重書庫に充満……って書くとすごいビジュアルイメージが浮かんでしまうけど、まぁ、普通だよね。濃度が高いってだけで。
1980年代半ばに導入した、旧式で湿度管理が十分にできていなかった空調システム(エアコン)のせいで、カビの胞子が貴重書庫に充満してしまっているとのことです。事態は2007年の晩秋には発見されていたのですが、状況調査、人体への影響、対策の検討などに時間を費やしてしまい、せっかくの乾燥した冬の気候を無駄にしてしまったと同館の職員はAmerican Libraries誌のインタビューに答えています。
イリノイ大学アーバナ・シャンパーン校の貴重書図書館、カビのため休館 | カレントアウェアネス・ポータル
■Face your pockets!
pocket は米語でカバンのことね。
face がダブルミーニングなので訳さなかった。
どういうことかはサイトを見れば分かる。
ちょっと訳を書いておく。
どうやるの?
スキャナに物を並べる。顔か顔の一部が映る様に隙間を空けてね。
Aaaaand スキャン! あとはメールで送ってね。(略)
注意!
目を開けてちゃ駄目だよ!
via
余談
こういうのを見ると、メールアドレスを収集するための evil player なんじゃ? とか一回は疑ってしまうな。
*1 筆者自身の論文かも。未確認。