過去の日記

2008-03-05 [長年日記]

不機嫌な職場 を読んだ [book]

著者が4人いるのね。
各章それぞれは、よく書けている――現場の雰囲気を率直に書き出しているし、なぜそうなったのか? という考察、アカデミックな面からのアプローチなど――と思うのだけど、全体を通しての一つの道筋が無い。
残念なことではあるし、瑕疵ではあるけれども、それだけをとりあげて価値無し、とするには勿体ない。

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)

  • 作者: 河合 太介,高橋 克徳,永田 稔,渡部 幹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売: 2008-01-18
  • ASIN: 4062879263
  • メディア: 新書
  • amazon.co.jp詳細へ

ざっと目次を引用する。
第一章 いま、職場で何が起きているのか
第二章 何が協力関係を阻害しているのか
第三章 協力の心理を理解する
第四章 協力し合う組織に学ぶ
第五章 協力し合える組織を作る方法
となる。


第一章は、まさに今私の「職場で何が起きているか」が端的に書かれている。

アジェンダを書く。
関わらない協力しない→自分の状況を周りに解ってもらえない→自分を守ろうとする心理→つぶれる人→生産性・創造性の低下→品質問題*1)→協力の問題は組織の問題であり社会の問題でもある

関心やコミュニケーションの欠如がまずうたわれる。
p21

さらに状況を悪化させてしまうことが起きる。助けて欲しいときに、誰も気づいてくれなかった、誰も声を掛けてくれなかった、声をあげたのに手伝ってもらえなかったという経験である。これを繰り返してしまうと、何もしないほうがよいという学習をしてしまう。「学習的無力感」というものだ。

これがひどくなると人は潰れる。うつ。適応障害など。

この問題は何かというと人と人との「関係」、「協力」にあるとする。
つまり、一人では解決できない。
むしろこれを一人ひとりの問題だと捉えてしまうと、全員に負の行動を取らせてしまうと説く。

組織長の問題だと捉えても、中間管理職の問題だと捉えても、リーダーの問題と捉えてはいけない。あるいは自分の問題だと捉えてもいけない。
そこが負の行動の出発点である。


第二章。ではなぜ組織はそうなってしまうのか? あるいはそうなってしまったのだろうか? という話。
ここで私自身、不思議に感じていることがあった。
「10年前はこんな感じじゃなかった」と。
何が変わったのか。

「役割構造」「評判情報」「インセンティブ」という枠組みで捉えている。

仕事の定義が明確になった。とりわけ「成果主義」により、個人の役割が、何がその人の仕事の「成果」なのかが明文化された。
仕事が高度になった。高度化の圧力は、個々の人の専門性を高めてしまう。技術やスキルといった話だけではない。仕事上の人間関係なども含む。○○地区は誰が担当する、などといった仕事の割り方なども、専門性を高める要因。

インフォーマル・ネットワークの消失。呑み会、忘年会、新年会、社員旅行、課内旅行……。それらが消えた。
一緒に仕事をしている人がどういう人かを知る機械を失った。

長期雇用という保障の消失。会社への帰属の動機が消えた。本の中で印象的な台詞が出てくる。「その仕事は私のためになるんですか?」


第三章はアカデミックなアプローチ。社会心理学的な側面から。
社会的に「相手を信頼する」「信頼した上で資源を交換する」という知見である。
その中で、信頼と社会的交換を阻害する要因、について明らかにする。


第四章は、事例紹介。グーグルの記事はちょっと飽きた感じもあるが、他の2つの例は刺激的。
ここまで後ろ向きな内容だっただけに、この章が目立つこと目立つこと。


第五章でいよいよ協力し合える組織作りの話になるのだけど、そんな都合のいい魔法な手段は、もちろん、ない。
先の「役割構造」「評判情報」「インセンティブ」という枠組みから、「工夫」が書かれている。


p152

「壁を作らないから、なんでも意見を言いなさい」というところまでは多くの組織で行われている。しかし、そこで出てくる意見を一つひとつまじに取り上げないならば、社員は、そのうち馬鹿らしくなる。
中には、そう言っておきながら、出てきた提案を一蹴しておしまい、あるいは、否定的な見解で返すという場の運用を許している組織を見かける。
「壁を越えて、なんでも意見を言えといっているのに、うちの会社は社員がおとなしいせいか、なかなか意見が出てこない」という会社は、実際はこうした現場になってたせいだろうか。

会社に限らない。
問題点を挙げろ! といっても、それに対して施策をうってくれなければ、誰も問題を自分で抱え込む。


p164

インフォーマル活動の価値を再認識したとしても、このような活動をただ行えばよいというものではない。
「よしわかった。昔やった要領で社員旅行を復活させればいいんだな」とやってしまうと、必ず失敗する。
なぜか。それは、インフォーマル活動を通じて得られる人間関係情報は、あくまで企業にとっての隠れてベネフィットであり、前面に立つものではないからである。
「人の顔を互いに知ろう」と呼びかけたところで、そんな場所にいきたいきんう動機は働かない。
あくまで、前面に立つのは、活動そのものである。つまり、社員旅行なら旅行である。それゆえに、そこに人が集まるためには、その旅行自体が魅力的なものでなければならない。魅力=豪華ではない。人が行きたいと思う工夫がその中にあるかどうかである。


p165〜p166

例えば、サイバーエージェントでは、人となりを知る工夫の一つに「ブログ」を利用している、と紹介した。また、イントラネットを利用した、社員の情報交換等も行っている、と紹介した。
しかし、疑問に思う人もいるのではないだろうか。
多くの会社が社内ブログやイントラネットを活用したが、上手くいっていないと聞く。なぜ、サイバーエージェントではそれが、上手く機能しているのだろうか、と
答えは単純明快である。それは、彼らの社内ブログやイントラネットは、圧倒的に面白いからである。外にあるブログやホームページと比べて、競争力のあるレベルで面白いから人はそこを訪れるのである


p176

スタッフが言われたものを持っていく。すると、すかさず「ありがとう」という言葉が医師から出る。
これは何も特別なことではないように見える。しかし、スタッフが医師の指示に従って、モノを取ってくるぐらい当たり前で、いちいち感謝すべきことではないという認識が"普通"になっている病院の方が実際は多いのである。
あなたの会社などをだろうか。「普通」になっている認識を、一度検証してみたいとかだろうか。


認知とは文字通り、他人を認めるという応答のことだ。平たく言えば、「この人すごいよ」と言ってもらえることである。


p180

風土を醸成するためには「感謝しろ」「認知しろ」とお題目を唱えているだけではなかなか進まない。やはり、何がしかの仕掛けや仕組みを企業運営のあちこちに用意しておくことが必要となる。


p182

毎週、無作為に選ばれた顧客から、滞在期間中のベストホテルマンを教えてもらい、そのホテルマンを表彰する、という仕組みである。
これだけだと、よくある「目立つ仕事をしている人だけが、会社から感謝され、認められる」制度で終わる。
しかし、このプログラムには工夫がある。
そのホテルマンは、自分がいい仕事をする上で、欠かせない協力をしてくれた裏方の社員を三名選出し、その社員も次の週に、同じように表彰されるという工夫である。
つまり、このホテルでは、目立つ仕事をしてる人だけではなく、いろいろな仕事をしている人が、さまざまな同僚から感謝と認知の喜びを享受する機会を整えているのである。


とにかく「工夫」である。
制度だけじゃない。ルールだけじゃない。
そこに「工夫」を持ち込む姿勢が唯一の道だと言っている様でもある。


引用が多くなってしまった。
なぜかといえば、この本は「そうか! そういうことか!」というカタルシスを得るようなものではないからである。

当たり前のことが書いてある。
でも、今、社会の中で、その当たり前のことが出来なくなっている。見えなくなっている。
そこに光を当ててくれる。気付かせてくれる。
そういう本なのだ。


もう一度言う。
この本に、明快な解はない。そんなものはどこにだってないのだろう。

ネットにあふれるブログよりも面白いもの、役に立つこと。それを社内ブログに書こうというインセンティブがあるのか。
(もっと面白く!)

小さな工夫。小さな気づき。
ちょっとした感謝の言葉。
(もっと楽しく!)

あなたが見えなくなっているものは何?

*1 ここで不正問題もでてくるが、それは私の職場ではない。(と思う。