過去の日記

2006-02-04 スパイラル [長年日記]

スパイラル [comic]

スパイラルについて語りましょうか。

スパイラル―推理の絆 (15) (ガンガンコミックス)

  • 作者: 城平 京
  • 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
  • 発売: 2006-01-21
  • ASIN: 4757516053
  • メディア: コミック
  • amazon.co.jp詳細へ


もちろんこれを読む前に最終回までの展開を知っていないと……後悔するだろう。






















さて、13巻〜14巻あたりで登場人物がどうも混乱しているみたいなのだけど、鳴海清隆が全ての運命を紡いだわけではないのだよな。15巻に入っても歩の台詞に清隆と書いて運命とルビを振っているところがあったりして、その辺は当事者故の混乱なのだろうか。*1
鳴海清隆が気が付いた時には、盤面上に全ての駒が配置されていてそれらの駒がどの様に動くのかが見えていたのだろうな。それで、どの様に駒が動けば盤上から自分を弾き飛ばせるか? を考えたのだろう。そして確実にそう駒が動く様にするために、情報を隠蔽し、時には開示してきた。そして全ての駒を盤上から一掃することを望んだ。
でも、駒を用意したのは鳴海清隆では、ない。


で、鳴海清隆が唯一自分で用意し、盤上に乗せた駒。結崎ひよの。
それが鳴海清隆の負けを決定づけることになるわけだ。今手許に無いので確認はできないが、13巻か14巻あたりに「盤上にきれいに全ての駒が並べられている」といった様な台詞があったはず。その時に結崎ひよのは? と思ったので、最終巻で決定的な何かを担う役として彼女がいる、ということは想定していた。それでも結崎ひよのが、鳴海清隆が最後に歩に絶望を与えるために初めから用意されていた、つまりは架空のキャラクタだということは全く想像できなかった。
いや、図らずも鳴海清隆が言った様に「ロジックにおいては限りなく黒と理解してもそれを心の底では拒否するよう」になっていたのだろう。それを人は「自己欺瞞」と呼ぶ。面白いことに、私は、心から楽しみたい作品については自己欺瞞が働く様にできているらしい。後から考えるとなんでそんなことに気が付かなかったの? という単純なことに気が付かないことがある。どうにもお得な機能が自分には備わっている。


閑話休題。
結崎ひよのは架空の人格で、「彼女」の本当の名前はついに判らずじまい。なのでどう呼べばいいのか困るのだけど、それが明かされなかったことは興味深い。もっとも物語的には当たり前なのだ。歩が「彼女」の正体を調べることなどするはずも無いし、清隆や、ましてや「彼女」自身に尋ねることもありえない。歩にとって「彼女」は失わなければならない存在、なのだから。
最終巻の展開のうち(最終話を除いて)ほとんど全ての事象を歩は予想していたと思う。だけど、鳴海清隆との対面の後に「彼女」が現れるというのは意外だったのではないだろうか?
そのシーン以前の歩はあらかじめ決めていた台詞を口にしている様に見えるのだけど、「彼女」との最後の会話だけはその場で言うことを考えている様な、そんな感じがする。
そしてその会話がとても切ない。
「……と言ったら信じてくださいますか?」と、疑問形で言葉にしたのはなぜか?
「言わなかったか? 俺は何も信じないって」と、同じく疑問で、過去に口にした台詞で問い返さなければならなかったのはなぜか?
そこで、疑問の形にしなかったなら、真実になってしまう。真実にしてしまったら、歩は「彼女」という支えを得てしまう。
だけど歩は――歩の示した希望を現実にするためには――いかなる支えも手にしてはいけない。
だから二人とも疑問の形でしか口にできなかったのではないか。と考えると、とても切ない。


「彼女」も「結崎ひよの」も、そのどちらもが「あらかじめ失われた存在」で、つまりは失われることで初めて存在していたことになるという――あぁ、わけが判らなくなっているけど押井守がトーキング・ヘッドで示した「不在の存在」ってこういうものなのではなかろうか、などと不意にあらぬ方向に思考が跳んでいって――フェイド・アウト。


追記(2006/9/15)
単行本が全部揃った。結局買い集めることになったか。
さて。
いつまでも「結崎ひよの」の名前を覚えない歩くんとか。
13巻の火澄くんの台詞、

歩のタイプって外見かっこいいけど
中身意外にかわいらしい
年上の人やろ?

とか。
最終刊の「彼女」が泣くシーン。なぜ声を押し殺しているのか? とか。
……あぁ!

*1 ただ1人、歩だけは「清隆」と「運命」を同一視してもいいのかも、と思い直したので、取り消し。