2006-09-08 [長年日記]
■IT業界の憂うつ
を読んだ。
内容的にはちょっと偏りがある(後述)と感じたので、類書を読んだことがない人はうつに関する別の本を併読することをお奨めする。
p46
先にも触れましたが、精神医学的な「うつ病」と臨床心理学的な「うつ状態」を区別して理解し、対応しませんと良い方向へ進みません。
うつ状態は本人の自覚的落ち込みのことを指す。つまり落ち込んでいるという自覚がある。
うつ病は自覚がない。つまり、「自分はまだやれる!」、「私がいないと全ての仕事が回らない。だから会社に行かなければならない!」というような言動。あるいは他者からみると睡眠障害が起きているのが明らかなのに、本人は決して認めようとしない。そんな調子で、自覚がないまま進行する。
この本の帯のアオリはこうだ。
不登校も、引きこもりも、職場不適応も根っこは同じ。
それが何かというと、「非現実的な自己過信」。
上に書いたうつ病に現われる自覚の無さが「非現実的な自己過信」というわけだ。
「自分はまだやれる!」というのは、体や精神の調子が悪くなっているという現実を受け止めずに、過信している状態。
「私がいないと全ての仕事が回らない。だから会社に行かなければならない!」というのも、その人がいなくても仕事は回るということを認めないという、非現実的な過信の発露。
で、この本は引きこもりや職場不適応も同じく、「非現実的な自己過信」が根にあると説く。
「自分はこれだけできるはずだ。できないのは周りが悪い」となるのが職場不適応。
「自分は学校でこんな扱いを受けた。それは不当だ。自分はこう扱われてしかるべきだ」となるのが引きこもり。
ということで「非現実的な自己過信」が、「不登校も、引きこもりも、職場不適応も根っこは同じ」というアオリの「根っこ」だということ。
これは結構偏っていると思う。あるいは単純化しすぎ、単一化しすぎ、と言ってもいい。
そう考えることもできるかもしれないが別の視点もあるのではないか、と感じた。
話は逸れるけど、「○○という仮説で△△は全て説明がつく」とか「日本語は全ての言語の祖先だ」というようなニセ科学が、ちょうど同じ雰囲気な気がする(ただしこの本がニセ科学だと言っているわけでは決してない)。
さて。
の目次。第1章 はじめにに並んでいるデスマーチ・プロジェクト発生のメカニズムから4つほど抜き出してみよう。
- 営業部門、経営陣、プロジェクト・マネージャの天真爛漫な将来展望
- 若者のカワイイ楽観主義:「土日に出てくればできますよ」
- ベンチャー企業立ち上げ時の楽観主義
- 海兵隊方式:「本物のプログラマは寝ずに働く!」
……どうだろうか。なんか、これらも、「非現実的な自己過信」と認識して差し支えないのではないかと思ってしまう。
「最初から無理だと思えるようなスケジュール」、「この誰もやらなかったこと、あるいは新技術があればきっと成功する」、「うちの会社ではこのやり方でずっとやってきた」、etc...
デスマーチ・プロジェクトが常態であるIT業界は、「非現実的な自己過信」を抱えたまま暴走する、うつ病患者みたいなものかもしれない*1。
■ハチミツとクローバー 10
そうだよ。これの発売日だったんだよ。「IT業界の憂うつ」なんて書くんじゃなかった……。
さておき。
何が塗ってあるのか、一瞬判りませんでしたよ。
ハチミツとクローバーだ! って気付くのにたっぷり10秒ぐらいかかりましたよ。えぇ。
それと、「お持ち帰り」の謎が解けましたね。よかったよかった。
前巻、ガラスがはぐちゃんに降り注ごうかというシーンに、
――さあ
終わりの
始まりの
幕を上げよう
があって、そして最終刊*2のラストが、メインキャラ5人のカーテンコールっぽいお辞儀なのは気に入った。「幕を上げよう」を受けてのカットだと思ったのだけど、どうかな?
ともあれ。
羽海野先生、ありがとう!! お疲れ様でした!! という気持ちでいっぱいです。