過去の日記

2012-03-23 [長年日記]

グランド・ツアーを見た [movie]

グランド・ツアー(字幕スーパー版) [VHS]

  • 監督: デビット・トゥーイ
  • 出演: ジェフ・ダニエルズ
  • 出版社/メーカー: パック・イン・ビデオ
  • ASIN: B00005GUGD
  • 発売: 1992-10-23
  • amazon.co.jp詳細へ

グランド・ツアー(日本語吹替版) [VHS]

  • 監督: デビット・トゥーイ
  • 出演: ジェフ・ダニエルズ
  • 出版社/メーカー: パック・イン・ビデオ
  • ASIN: B00005GUGE
  • 発売: 1992-10-23
  • amazon.co.jp詳細へ

佳作のTT(タイム・トラベル)ものである。
DVD化されていないが、レンタルで十分な数が出回っていたようで、レンタル落ちのビデオを安価に入手できる。というか、ずっと前に入手していた。
入手はしたものの見ていなかったのだけど、家のビデオの余命もわずかな感じなので見ることにした。
わざわざビデオを手に入れて見ようという人も多くはないだろうし、DVD化もあやしいので、あらすじはちょっと丁寧に書いてみよう。
結末のシーンだけは、フォントの色を変えておく*1


とあるアメリカの田舎町(?)に風変わりな観光客の一団がやってくる。
彼女ら(女性がコンダクターを務めているのだ)は街中にあるホテルにではなく、町外れにある、それもまだ改装中とおぼしき小さな古ホテルに宿をとろうとする。そのホテルはまだオープンしてはいなかった。いったんは断ったホテルのオーナーは、けれどコンダクターがちらつかせる大金の魅力に勝てず、宿泊を承諾する。
その小さなホテルのオーナーが主人公。
以前に事故で妻を亡くし、娘と暮らしている。今でもその事故を夢に見るほど。また、事故のせいで義父とは険悪な仲であった。

さて、その観光客たちは一見して怪しい行動をする。主人公は彼女たちの素性を怪しみ、行動を観察したり、話しかけてみたりする。
ある日主人公は、観光客の一人が町であやうく事故を起こしかける場面にでくわす。その時に、観光客が落としたパスポートを拾う。
開いてみると、たくさんのスタンプ。
ありえない年月日と、地名。その中にはアメリカ国内の地名もあった。
観光客の一人は、アメリカ国内を旅している、と言っていた。国内旅行なのになぜパスポートが必要なのか?
それにこの年月日と場所は?
主人公は気がつく。それは、大災害が起きた日付と場所に一致していた。
それに気づいた時、観光客の一人の美しい女性が近づいてくる。奨められるままにお茶を飲むと、主人公は意識が混濁し気を失ってしまう。目が醒めたときは彼女と何を話したのかを覚えていなかった。

女性が語ったのは、もしこんな世界があったら、というたとえ話。
それは完璧な世界。
働く必要も無く、病気にもならず、何も心配することがなく、生まれた時から死ぬまで全てが順調で平穏に暮らせる世界。
しかしその完璧さこそが唯一の欠点なのだ、と。

もちろんそれはたとえ話などではない。観光客たちは、未来からやってきていたのだ。
主人公が目を覚ました直後、おそろしいまでの振動と光が町を襲う。隕石が墜ち、町の半分が吹き飛んだ。
観光客たちは、静かに、ホテルからその光景を見ているだけだった。
いや、その光景を見ることこそが、観光客たちの目的なのだ。

折り悪く主人公の娘は義父の(つまり娘の祖父の)許にいた。義父は町の中での権力と、法律を最大限に利用して、孫娘を主人公から引き離そうと計画していた。
主人公は町へ急ぎ、ようやく娘と出会う。
しかし、観光客たちがまだ町から離れていないこと、町の外れに留まっていることを知る。
娘を町に残したまま、その場所に向かう主人公。
町の外れで、観光客たちが見物しているのがどこなのか、それを知ったとき主人公は慄然とする。
多くの人が避難先として使っている学校の体育館、そして娘がボランティアとして留まっている場所だった。
観光客たちに見つかり、追いかけられる主人公。その追跡を逃れ体育館へ急ぐ。だが、観光客の一人——パスポートを主人公に見られてしまった「過去学」の学者——が、体育館へ入ろうとする寸前で押しとどめる。
そして、主人公の目前で、体育館は大爆発を起こす。

絶望し激高する主人公をよそに、観光客たちは旅の"次の目的地"へと移動をはじめる。観光客たちはパスポートにスタンプを押してもらい、一人ずつ幽霊のように消えていく。
そんな中、主人公にお茶を飲ませ昏倒させたあの女性がパスポートをそっと手渡す。「過去学者」は体育館での負傷がもとで死亡していたのだ。彼のパスポートが主人公の手元に残る。

なぜ彼女は、パスポートを渡したのか。
このパスポートは一体なんなのか?
移動した場所時間がパスポートにスタンプされているのではなくて、因果が逆になっているのはないかと——移動したい場所時間をパスポートにスタンプすることで時間移動が実行されるのではないかと、そう推測する主人公。
試しに昨日の日付を、ありふれたゴム印でスタンプする。

そして主人公は「昨日」に戻る。
ならばなにをするか。
悲劇を回避するべく奮闘を始める。
少なくとも、娘を助けなければ、と。
甲斐あって、娘と再開し、"被害"を最小限に食い止めることができた。

以下最後のシーン
ホテルに戻り、妻との思い出の品を取り出し眺めている主人公。娘が予約の電話に出ている。電話が終わり、父のもとへやってくる娘。そこに父の姿はない。母がよく弾いていたピアノのメロディが上階から流れてくる。


過去改変可能なTTものとしての瑕疵はあるだろう(あまりちゃんと検証してないけど)。
そういう「あら探し」はしたくないような、TTものの佳作だった。


TTものとしての話の前に。
「今」この作品を見ると、観光客たちの醜悪さが際だって見える。あるいは、居心地の悪さのようなものも感じる。
自分たちの世界に刺激がないという理由で、過去の大災害を「観光」して見て回るという行為が、すごく気持ちが悪い。
なぜか。
もちろん、3月11日の震災のせいだ。
テレビのこちら側で、津波の映像を見ていた自分(電気が回復した後の話ではあるが)。
「ああ笑えてきた」とか「面白いね〜」とかいった失言。
色んなことが思い浮かぶ。

入手したのは随分前なのに今まで見なかったことに、つい意味を見いだそうとしてしまうのは悪い癖か。


TTものとして。
とりあえず、いつもの引用から。

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 新城 カズマ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売: 2005-06-16
  • ASIN: 4150307458
  • メディア: 文庫
  • amazon.co.jp詳細へ

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 新城 カズマ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売: 2005-07-21
  • ASIN: 4150308039
  • メディア: 文庫
  • amazon.co.jp詳細へ


一巻 p259
――駄目よ、そんな分類法じゃあ!
――どうして?
――本質的じゃないもの。作品の発表年代とか、時代区分とか、時間移動手段とか、旅行先で起きた事件の種類とか……コージン、あなたどう思って? いいえ、いうまでもないわ。あのですね。涼くん、分析部門は日帰り旅行の予定表づくりではないのよ。
――そ、そりゃそうだけどさ。
――だったら! 卓人なら分かるでしょ? TTにおける最重要観念といえば? なにゆえ人はTTを夢想し、希求するの? TTの何が、私たちの魂をこんなにも揺さぶるの? さあ、答えは?
しばらく考えてから、ぼくは答える。響子なら確実に満足するだろう簡潔な惹句を。
――『二度目の機会セカンド・チャンス

ということで、この映画は、二度目の機会セカンド・チャンスものの映画として見ることができる。
町の被害を少なくしたい。
最低限、娘だけでも救いたい。
と主人公は考え、行動し、成功する。
一方被害をゼロにはできないだろう、とあきらめてもいる。ある程度はしかたない、と。
主人公の造形は、決して善人や理想家ではない。
観光客に向かって「過去の奴はどうでもいい。とっくに墓の下だからな」とか言っているし。身も蓋もない!!
しかし、これは周到な造形である。
途中、観光客の一人が「時間には一定の弾力性がある。だから見物が許されている」と教えている。
それをまに受けている、とも取れなくはないが、でも彼が「何度やり直してでも町の人全員を救ってみせる」と考えるような人物には描かれていない、とそう思う。
そのような「最も理想的な結末」を最初から望むような人物ではない、ということである。
それが、最後のシーンで、娘の呼びかけに主人公が返事をしないうえ、姿すらなくなっていることに大きな意味を与えている。


主人公が人生の中で最も変えたいと思っていたことはなんだったか。
そして、時間の弾力性があるとしたら、それを変えるために何を差し出さねばならないか。
彼は妻の写真を見ながら何を考えていたのか。
色々と見終わった後に考える余地があるのもよいSF。


タイムマシンの発想も面白くて、パスポートがタイムマシンになっている、というのはそうそう思いつかないだろうなぁ、とか。
改変可能性を示してはいるが、一方で改変を中和するような弾力性もある、という半端でハードSFには嫌われそうな設定が、物語にピッタリとはまっているのもいい。
低予算SF映画のお手本のような、脚本の勝利かな、と思う。


最後に、これを書くのに色々調べていたら、製作に山形テレビが絡んでいたということを知った。
つまりこんな良作品(しかも日本では全然受けなさそうな!)にお金を出していたのが、我がふるさとの山形だった!! というおまけがついてきた。
……まぁ、興行的には失敗しているのだけど。

クライシス2050にお金を出したNHKエンタープラ……(略)

*1 もっともgoo映画のあらすじは、しっかり最後のシーンまで書いてあるし、さほど意味はないのだけど。