2010-01-30 [長年日記]
■貧困大国アメリカII
この本、英訳してアメリカで売ればいいのに。
……などと思っても、低所得者層には数ドルの本など買えないのだろう。
英訳版は Creative Commons あたりで配布するとか? (ましてやWebを見る手段などないだろうが、けれど、第三者が再配布する途が開けるのだから)
以下メモから色々。
p30
父親が学生だった七十年代後半もそうです。政府のペル奨学金は父親の学費の七割をカバーしていました。だから僕たちの親の世代は、子どもの教育費のために貯金なんてしていません。
平等な教育は当たり前の権利だと思われていた時代に育った彼らは、僕たちをやる気のない世代だと批判するので、父親とはいつも喧嘩になります。
このあたりは日本とはだいぶ状況が違うようだ。
p36
彼女の借り入れている学資ローンの利子が、三.四%から八.五%に調整されるという。契約時には固定金利だったものが変動するのはおかしいとイドナはすぐに返信したが、返ってきたメールには、「拒否した場合、ローンの残高をただちに払うこと。払わなければ債務不履行と見なす」と書いてあった。
固定金利が変動するって怖い。「固定金利の様に見せかけられていた変動金利」よりも怖ろしい。
p41 学資ローン会社内で通知されていた事項の一つ
自社内に、借り手に対して正しい情報を与えた社員がいれば、直ちに解雇すること。
「解雇される」ことがどれほど怖いことなのかをよく知っているはずの、ローン会社員に対する脅し。
p47-48
学資ローンに対しては消費者保護法というものは存在しない。
一九九七年にクリントン大統領が署名した高等教育法改正が、他のローンに通常は適用されている消費者保護法のすべてを学資ローンから削除したからだ。
さらに二〇〇五年には、住宅ローンやカードローンでよく使われる、借り手が自己破産した場合の借金残高免責も、学費ローンの適用から外されていた(略)。(略)
「学費ローン制度は国民が気づかないうちに少しずつ土台から破壊され、ぼろぼろにされていたのです」とアランは言う。
「もっと利子の低いローンへの借り換えや、経済的困難に陥った際の支払い猶予期間の申請など、通常借り手を保護するはずの法律は、高等教育法が改正されるたびに一つずつ外されていました。借り手である僕ら学生も,親たちも知らないうちに」
自己破産が解決にならない社会。
p74
自動車一台あたりに上乗せされる年金分のコストは一五〇〇ドル(一五万円)。これが競争相手のトヨタUSAに大きく引き離される原因の一つとなり、かつては「巨人」と呼ばれたGMの市場は失われていった。
あぁ、なるほど GM が競争力を失うわけだ、と思った。
p173 (民営刑務所会議なる場で配られた、大手投資会社の作成したパンフレットから)
「まさに民営化された旧国営事業のうち、いまもっともトレンディな投資先──順調に増加する有罪判決と逮捕率が確実な利益をもたらしてくれます。急成長するこのマーケットに今すぐ投資を!」
これには吹いた。
p183 (警察の方針が、ホームレスに対して厳しく取り締まる様に変わったことに対して)
ちなみにもし、これらのホームレス取り締まり費用を住宅支援に使った場合、二〇〇万人以上のホームレスに住居を提供することができる計算だ。
うーん。
p184
フロリダ州オーランドで市議会が通過させたのは、公園内で二五人以上が食べ物を共有することを違法ととする「炊き出し禁止令」だ。
これにも目を疑った。
ホームレスが違法になるというだけではなく、ホームレスを支援することが違法になるなんて……。
p190
アメリカでは失業状態が一年を超えると失業人口の統計から外される
アメリカの失業関連のニュースを目にする時には頭の片隅に置いておかなければならないのだろう。
刑務所の状況については、日本のものだと、
あたりに書いてあったなぁ。
に書いたが、その章はほとんど触れていないか。
アメリカの実情のルポということで、一次資料にあたるのが難しい。
日本のことであれば、単に面倒なだけで、難しいということはないんだろうけど、アメリカのこととなるとWebで引っ張ってこれなければどうしたらいいのか? と思う。
例えば、p41の、「学資ローン会社内で通知されていた事項」などは、
http://www.lawschoolloans.com/articles/kennedy-questions-collection-tactics.php
で読むことができる(たぶんこれだろうと思う)が……。
追記
p187-188
ゼロ・トレランス法とは、(略)一九九四年にニューヨーク市長に就任したルドルフ・ジュリアーニが導入した治安対策だ。
(略)
その結果、犯罪率が大幅に減って治安が回復したと言われ、ジュリアー二のこの政策は世界各地から高い評価を得たのだ。
だが実際は、ニューヨークの犯罪率は一九九〇年代初めにすでに半減している。つまり、ゼロ・トレランス法を導入する前から犯罪率は減少し始めていたことが明らかになっている。
回帰分析をしたら実際は景気との相関の方が強いと考えられるという話は、
に載っていたなぁ(うろ覚え)。