過去の日記

2011-09-06 [長年日記]

食のリスク学 [book]

今だからこそ、読むべき本ではないかと思い、手に取った。

食のリスク学―氾濫する「安全・安心」をよみとく視点

  • 作者: 中西 準子
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売: 2010-01-09
  • ASIN: 4535585741
  • メディア: 単行本
  • amazon.co.jp詳細へ


例によって気になったところを引用。
このエントリは主に備忘録であって、書評ではないので注意。


まず、冒頭、p7。
(リスク管理研究センターという組織名称について)

日本では安全という言葉はしばしば使われるけれど、リスクという言葉はできるだけ避けようとします。最近は状況が少し変わって、リスクということばが氾濫していますが、二〇〇一年の設立時は、リスクなんて、しかも、化学物質のリスクなんて、最初から危ないと決めつけているようで、ダメだと言われました。今でも、本当に自己や有害性が問題になっているようなところでは、リスクという言葉はやはり使われていません。

あー。今となっては「まさにその通りだった」としか言えない様なことが書いてある。


牛肉が安全であると言えるには、どうすればいいのか? どのように考えればいいのか? ということをしっかりと考えていないことに気づかされる。「なぜ検査するのか?」という目的を見失う。
p31〜32
(国内牛のBSEリスクについて)

(略)二〇〇一年九月にBSEの牛が一頭見つかりました。この時点で、私たちが予想できるリスクは、やはり九五%信頼限界値でBSEが年六〇頭ぐらいとなります。三〇〇頭の検査をして陽性が一頭出たという状況の下では、この程度の大きなリスクもありえるとしなければならないのです。検査の頭数が増えれば、そのときに一頭とか二頭陽性牛が発見されても、リスク推定値は小さくなります。情報が少ないときには、リスクを大きく考えなくてはならないことに注意です。
こうしたときには極端な手を打たなければならず、全頭検査もその一つの方法として考えられます。しかし、実際に調査が進んでいけば、それほどリスクがないことが分かり、その時点で三〇か月以上の牛の全頭検査はもうやらないというべきだした。ところが、全頭検査の意味を説明せず、「全頭検査をするから安全です、皆さん心配せずに食べてください」というので、全頭検査をやめると危険、いや、もっと拡大すべきと皆が考えてしまいました。したがって、全頭検査をやめられなくなってしまい、今度は、日本だけでなく、米国から来る牛も全頭検査をしろというような要求に次々に発展していったのです。

つまり、どのぐらい調査すればどのぐらいリスクが減るのか? と考えないと、不要な検査をしてしまう。
検査頭数の割合を増やしていくと、これ以上検査してもリスクはほとんど減らない、という点に行き着く。
それ以上の検査は、お金と時間の無駄なのだ。
ならば、そのお金と時間を別のリスクを減らすことに使った方が生活全体のリスクを下げることができる
そういうことだ。


p48

きちんとリスクを証明しようとしないから、全部回収することになります。そして全部回収した企業がいい企業だ、リスク管理に熱心な企業だということになってしまう。そんな評判を気にしてばかりいる メーカーがありますが、私はもっともけしからんとおもっています。徹底的に費用をかけて回収するのはいい企業だ、ということになってしまうからです。

これが、まさに今の日本に蔓延していると思う。


p158

市民運動は最初は正しいのでしょうが、一つのスローガンをずっと言い続けなければならないので、時代が変わってくると却って間違ってしまいがちです。そこが悲劇だなと思います。

p160-161

この頃(引用者注:30年以上前)の合成洗剤に使われていた代表的な界面活性剤は、生分解しにくい分岐鎖型のアルキルベンゼンスルホン酸円(ABS)でした。そのうちに、洗剤メーカーは分解しやすい直鎖型のアルキルベンゼンスルホン酸円(LAS)に買えたのです。状況はだんだんとよくなっていきました。
ところが、反対運動していた人たちは改善されたことを認めないのです。私たちは調査をしているので、「それほど問題ではなくなっています」と段々と変わっていく。すると、今度は私を排斥しようとしました。私は当時、『水情報』というニュースレターを出していて、そこに「今の合成洗剤はそれほど悪くない」という内容の、ほかの方が書いた論文を載せたのです。すると、合成洗剤反対運動をやっている人たちから「購読をやめます」という連絡がありました。

今色々と活動している人も、同じ轍は踏まないでほしい。
危険だ危険だと思って遠ざけていると、どういう状態なら安全でかつ安心なのか、ということを忘れてしまうのではないか。とか思う。


p162

日本では、環境中に残っているダイオキシンは、農薬由来の割合が多いということを、古い農薬の成分を分析したりして示しました。(略)世界的にも、これだけきちんと発生源を証明したものはありませんでした。当時は、ダイオキシンはごみ焼却炉からのみきていると信じられていました。
ところが、発表したら市民運動などから相当にたたかれたのです。
なぜたたかれるのか、よく分かりませんでした。「おれたちをダイオキシンで殺す気か」というような抗議がきました。それ以上に多かったのは、「塩ビメーカーや化学工場をサポートするのか。お前は、企業側の人間だ」という意見です。けれども、あのダイオキシンのものすごい騒動、焼却炉を犯人視する風潮の中でめちゃくちゃに儲けたのは、ダイオキシンを分解する性能を持つ焼却炉を作れる焼却炉メーカーや大きな造船会社でした。

この辺は、これとは別の本(asin:4535584095)に詳しい。
実際、ダイオキシンは人に対しては強い毒性を示さなかったわけで、焼却炉の改修にあてたお金を別の何かに回した方がはるかに有用だったろう、ということは言える。ただそれは現在の視点で、ということなのだけど。
現在進行中のリスクに対しての評価についてはどうやるの? というあたりは不明であった。


p213
(「天然モノは安全なのか?」という本の紹介にて)

これを見て驚いたのだが、我々は、どの農薬が危ないということはよく知っているが、自然の食品に何が含まれているかについての知識がないことである。

有機食品
天然毒素は有機栽培作物の体内に多く、何世代も有機栽培を続けるとさらに増える。植物たちは、天然の殺虫剤をふやして害虫に立ち向かうのだ、と書かれている。有機栽培野菜について、こういう検査をしてみたらどうだろう。

オキギリソウ
今、最も人気の高いハーブ系サプリメント。薬効もあるが、やたらと飲んでいいか疑問。もし、これが人工物なら販売禁止になるような結果もでている。

(以下中西)気をつけよう。「添加物一切なし。100%ハーブ抽出物」の広告を見たとき、思わず苦笑した、だからこそ危ないのに。

これは私の趣味で引用した。
うん。本当に。


全体にわたって諸手を挙げて賛成、というものではないけれど、考えるための道具として、武器として有用かと思う。


言及した他の本

環境リスク学―不安の海の羅針盤

  • 作者: 中西 準子
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売: 2004-09-01
  • ASIN: 4535584095
  • メディア: 単行本
  • amazon.co.jp詳細へ

天然モノは安全なのか?―有機野菜やハーブもあぶない

  • 作者: ジェームズ・P. コールマン
  • 出版社/メーカー: 丸善
  • 発売: 2003-09
  • ASIN: 4621072870
  • メディア: 単行本
  • amazon.co.jp詳細へ


読みたい本

環境リスク論―技術論からみた政策提言

  • 作者: 中西 準子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売: 1995-10-26
  • ASIN: 4000028189
  • メディア: 単行本
  • amazon.co.jp詳細へ

この本が仙台市図書館にない。残念。